ー遺伝子検査に興味を持たれたきっかけを教えてください。
ある日、遺伝子検査を行う会社の代表とお話しする機会があり、そこから興味を持ちました。
自分の遺伝的リスクを知ることは、どうして自分が怪我をしやすかったのか、その理由を明らかにし、自分自身を深く理解するきっかけとなるかもしれないと考えました。
ーアスリートへの遺伝子検査の活用方法について教えてください。
遺伝子検査は、選手のパフォーマンス向上やトレーニングの調整に非常に役立つと考えています。例えば
遺伝子検査を通じて、速筋と遅筋の傾向を知ることができます。速筋は筋トレで筋肉がつきやすく短距離走が得意とされる一方、遅筋は持久力に優れマラソンが得意な特徴があり、遺伝子検査を通して自身がどちらのタイプなのかを知ることで、効果的なトレーニングや身体のケアを効果的に行うことができるようになります。
一方で、検査結果のみでスポーツやポジションを決定することはお勧めできません。
ある論文で示されているように、100メートル走で遅筋型の選手が10秒46を記録した例があります。これは、速筋でなくても優れた結果を出せることを示しています。
確かにオリンピックで金メダルを獲得するのは速筋を持つ選手かもしれませんが、野球の盗塁王を目指すなら10秒46でも十分な速さだと思います。大切なのは、遺伝子を知ることでどんなトレーニングが最適か、また今後何をすべきかを見極めることです。
遺伝子検査を活用する際の具体例として、ある高校生のケースを紹介します。
彼の父親が「こいつは全然太らない。ちゃんと食べてないんだ!」と不安を抱いており、相談がありました。実は、この高校生は遅筋タイプで、他の選手と同等、もしくはそれ以上に食事やトレーニングを行っていましたが、筋肉がつきにくかったのです。
この場合、速筋を鍛えるトレーニングを通常より増やすことも一つの戦略ですし、遅筋特性を活かして長時間パフォーマンスを維持する能力を伸ばすことも重要な手段です。遺伝子結果は、その選手がどこに注力すべきかを示す一助となり得ます。
遺伝子検査の結果を参考に自身を深く知り、今の状況と将来の選択肢を考えるための道しるべとすることで、選手の努力が報われる方向性を見いだすことができます。トレーニングの見直しや、新たな目標設定のための有効なツールとなりうるのが、遺伝子検査の最大の利点ですね。
ー遺伝子検査を導入したことでどんなメリットがあるのか、また逆にどんなデメリットがあるのでしょうか?
遺伝子検査は統計学を基にしており、100%結果を信じる必要はありません。デメリットとして、結果に頼りすぎてしまい、努力を怠ることが挙げられます。
一方で、メリットは自身の特性を理解し、最大限の努力をどのように振り向けるか具体的な指標が得られる点です。
例えば、私自身、筋肉が固くなりやすいという遺伝子を持っているため、若い頃に練習終わりに遊ぶのではなく、ストレッチを徹底すれば良かったと感じることがあります。限られた時間で必要な努力を明確化できることが大きな利点だと考えています。
ー今後、遺伝子検査がさらに有効活用されるためには何が必要だと思いますか?
コスト面や結果の伝え方が課題として挙げられます。特に、遺伝子検査費用は高額なため、検査を受けてもリスクや特徴が見つからなければ、期待を裏切られることがあります。血液検査なら「異常なし」の結果は喜ばれる一方で、遺伝子検査で「問題なし」となると、少々がっかりされることもあると思います。
改善としては、検査結果が「問題ない」場合でも、その結果の意義や次のステップを示せれば、より良い体験に繋がるかもしれません。そして、費用を抑えることでもっと多くの人が気軽に利用できるようになればと思います。
ー実際検査をしてみてリスクがないと判定されたとき、多田さんはどんなカウンセリングをしていますか?
私の場合、先ずは、アスリートご本人の理想、自分はこうなりたい、今これができていないっていうところを伺った上で、現在の身体がどのような状態なのかというところを一番大切にしています。
理学療法士として身体の評価をしてアスリートの理想形につなげていくということがミッションになるので、遺伝子の割合というのは少し要素としては減ると思いますが、現状の理解と理想形についてアスリートと会話しながら施術を進めていきます。

ー最後に、多田さんの今後の展望をお聞かせください。
長年の経験と遺伝子情報を活かし、アスリートや一般の方々が自身の健康とパフォーマンス向上を実現するためのサポートを続けていきたいと思います。遺伝子を正しく理解し、活用することで、誰しもが持つ可能性を最大限に引き出せればと考えています。
プロフィール

多田 裕一(ただ ゆういち)
首都大学東京大学院博士前期課程修了後、2013年株式会社Medibody設立。
姿勢や動作所作、歩き方の癖を見抜き、どの部位が弱く、硬いのか。なぜ、そのような現象が起こっているのかを筋肉だけでなく、自律神経や内臓など幅広く紐解くことが得意。
資格・経歴
JR東日本女子柔道部、慶應中等部男子バスケットボール部などの理学療法部門を担当。
セミナー活動は、酒井医療株式会社で「REBOX」、荒川区や港区などで「理にかなった姿勢動作と歩行」などを開催。