第3回「これからのトレーナーに求められること」
人生100年時代と言われるなか、様々な社会的要因を背景に健康寿命の延伸の必要性が高まっています。さらに近年の筋トレブームもあり、急激にトレーナー需要が高まってきました。しかし、その需要の高まりに伴って、パーソナルトレーニングで重傷などを負う事故の件数が増加し、消費者庁の消費者安全調査委員会が実態調査に乗り出す事態となっています。そこで、トレーナーを育成するトレーニング指導者業界の団体のひとつ、JATIの事務局長 斉野恵康氏に業界団体から見た現状と今後の展望についてお話を伺いました。今回はその最終回。
第1回はこちら>>「JATI(日本トレーニング指導者協会)とは?」
第2回はこちら>>「トレーナー業界の今後の展望」
―トレーナーにとって、一番重要なことは何だとお考えですか?
トレーナーに限らず、人に何かを指導する人は学び続けなければなりません。これからトレーナーになろうとする方には、是非前向きに学び続ける姿勢を持ち続けていただきたいと思います。学び続けなればならない理由の一つは、今自分の中で常識となっていることが、数年後には非常識になる可能性もあるからです。この分野は日進月歩に情報が更新されるので、競技者や顧客に向き合うトレーナーは、常にこうした情報に対応していかなければなりません。
トレーニング指導者は常に学び続け、情報の信頼性を見極めるための知識や分析能力を養い、新しい情報や手法を伝統的な手法と組み合わせたり、取捨選択しながら、クライアントに最適と思われる安全で効果的なプログラムを作成・指導して結果を出していってもらいたいと思います。
―トレーナーの育成に欠かせないことは何でしょうか?
相手を知り、その上で様々な環境要因の中から安全で効果的でベターな手法を選択する。その相手を知るということの重要性を伝えることは欠かせないと思っています。トレーニング自体は誰でもできる単純なことに見えるかもしれませんが、結果的にやることが同じになっても、それを選択するまでに様々なことを科学的に測定し、エビデンス等も含めて検証した上でのことなのかどうかで大きな差があります。
以前、金メダルを沢山獲得して日本柔道の復活と言われたRIOオリンピックの柔道の体力強化の責任者に講演していただきました。一体、どんな特別なトレーニングでそんな輝かしい成績を残したのかと期待していました。すると、結果的にはベーシックなトレーニング種目を徹底的にやったというお話でした。様々に分析して、こうしたパフォーマンスを上げるために、こうした能力を上げる必要がある。そのためにはこうしたトレーニングをするとなったときに一番効率よく安全に鍛えられるのが、結果的に基本と言われているようなトレーニング種目の数々だったとのことでした。大事なことに気づかせてくれた講演でした。
例えば、基本と言われるスクワットをやりましょうと言ったとして、見た目は素人にも似たような指導は出来るかも知れませんが、いろいろ測定して、問診して、検証した結果で、明確な目的をもってスクワットを選択するのと、それしか知らなくてスクワットをただやらせるのとでは、大きな差があるのです。見た目は大きく変わらなくても結果は違います。ただ一般の人にその見極めは難しいと思います。そこで必要になってくるのが、エビデンスに裏付けされたきちんとした資格で、この資格を持っている人が言っているのだから大丈夫だろういう判断していただける存在にならなくてはいけないと思っています。
しっかりとしたベーシックな知識と技術があったうえで、各対象や目的との間を埋めていく、高齢者にはこういう傾向がある、ジュニアはこういう傾向があるという勉強をして、そのうえで、目の前の人はどうなのかを調べて、その人たちにどんなトレーニングを指導するのかを導き出すのであって、エクササイズテクニックだけを習得していても真の指導はできません。身体の基本、トレーニングやエクササイズのベースをしっかり勉強している人は相手を知ろうとすることにより、応用が利くので是非そこを目指していただきたいと思います。
その点では、われわれが設立した業界団体、運動指導者団体連絡協議会に加盟している4団体では基本となるプログラムはしっかりしているので、団体ごとに目指すトレーナーの方向性は違っても、しっかりと学べますし、クライアントの皆さんは安心して指導を受けていただけると思います。今後はどのような社会的ニーズにも対応できる応用力のあるトレーナー育成のために協議会の体制もより充実させていけるよう、各団体の方々と話し合っていきたいと思っています。
ーありがとうございました!
プロフィール
斉野 恵康(さいの よしやす)
特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会事務局長。
早稲田大学ゴルフ部監督としても活動し、アスリートの指導を行う。
資格・経歴
1994年 早稲田大学第二文学部卒業
1997年 株式会社ベースボールマガジン社 広告局
2003年 株式会社BBMスポーツコミッション事業部長(出向)
2007年 NPO法人日本トレーニング指導者協会事務局長(兼務)
2008年 株式会社ジャパンスポーツコミッション 執行役員
2011年 現職