第1回 JATI(日本トレーニング指導者協会)とは?
人生100年時代と言われるなか、様々な社会的要因を背景に健康寿命の延伸の必要性が高まっています。さらに近年の筋トレブームもあり、急激にトレーナー需要が高まってきました。しかし、その需要の高まりに伴って、パーソナルトレーニングで重傷などを負う事故の件数が増加し、消費者庁の消費者安全調査委員会が実態調査に乗り出す事態となっています。そこで今回は、トレーナーを育成するトレーニング指導者業界の団体のひとつ、JATIの事務局長 斉野恵康氏に業界団体から見た現状と今後の展望についてお話を伺いました。
―斉野さんはお仕事とは別に母校の早稲田大学ゴルフ部の監督もされていると聞いています。ご自身ではプロとしてのトレーナーの活動はしていないとのことですが、JATIの運営に携わるようになったきっかけを教えてください。
元々スポーツ系の出版社の編集と営業職でしたが、その出版社主催のセミナーなどで、のちにJATIを立ち上げることになる方々と繋がってはいたのです。そして、JATI設立後に事務局運営を出版社の一事業として請け負ったのが最初でした。それから様々な変遷をたどり、現在はJATIの運営に専念することになりました。
―JATIはどういう経緯で設立されたのですか?
当時、ストレングス系のスポーツトレーナーの資格というのは、日本にはまだ明確には存在していませんでしたが、アメリカではすでに存在していて、日本にもその日本法人が設立されました。それまで日本のトレーナー資格取得希望者は、わざわざ渡米して英語で試験を受けて、スポーツトレーナーの資格を取得していましたが、日本法人が設立されたことで、日本に居ながらにして日本語で試験を受けられるようになり、日本のトレーナー界にとって大きな前進になりました。一方で、米国の情報やノウハウだけでなく、日本の文化や環境、日本人の身体データに則したプログラムの必要性やアメリカ以外の国からの情報収集も強く求められるようになり、日本発祥のトレーニング指導者団体であるJATIが設立されました。
―JATIの特徴を教えてください
JATIでは、「科学的根拠に基づき、あらゆる対象や目的に応じて安全で効果的なトレーニング指導が行える専門家」を「トレーニング指導者」と定義づけしています。例えば、スポーツ分野の「トレーニングコーチ」や「フィジカルコーチ」、フィットネス分野の「パーソナルトレーナー」が対象となり、様々なトレーニングを通じて必要な体力要素を向上させる職業になります。
ひとことでトレーナーと言ってもかなり広範囲な専門家がいますが、大きく分けて2つに分類できると思っています。いわゆる「治す」トレーナーと、「鍛える」トレーナーです。JATIは後者の元の能力をUPさせる「パフォーマンスの向上」に主軸をおいていて、トレーニング科学、機能解剖や運動生理学等を含めたスポーツ医科学、心理学、栄養学等を学べるようになっています。
各競技の日本代表やオリンピック選手を指導するトレーナーも多く在籍し、トップアスリートに関連する最新の情報やデータや指導方法が学べ、そうしたスポーツで培った最新鋭の知見を一般の方々の健康増進などに応用できることが強みになります。半面、医療分野に近い取組みは医療資格者や健康運動指導士等と協力して行ってまいります。
横軸で、左端に「医療連携」があって、真ん中に「健康」があって、右端に「競技力向上」があるとすると、健康運動指導士は「医療連携」から「健康」の維持増進、そしてJATIは、「健康」から「競技力向上」に主軸を置いて活動しています。真ん中の「健康」という部分で連携することで、運動指導者(トレーナー)が医療連携から競技スポーツという幅広い対象や目的を網羅できると考えています。
(※第2回「トレーナー業界の今後の展望」へつづく)
プロフィール
斉野 恵康(さいの よしやす)
特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会事務局長。
早稲田大学ゴルフ部監督としても活動し、アスリートの指導を行う。
資格・経歴
1994年 早稲田大学第二文学部卒業
1997年 株式会社ベースボールマガジン社 広告局
2003年 株式会社BBMスポーツコミッション事業部長(出向)
2007年 NPO法人日本トレーニング指導者協会事務局長(兼務)
2008年 株式会社ジャパンスポーツコミッション 執行役員
2011年 現職