第2回「トレーナー業界の今後の展望」
人生100年時代と言われるなか、様々な社会的要因を背景に健康寿命の延伸の必要性が高まっています。さらに近年の筋トレブームもあり、急激にトレーナー需要が高まってきました。しかし、その需要の高まりに伴って、パーソナルトレーニングで重傷などを負う事故の件数が増加し、消費者庁の消費者安全調査委員会が実態調査に乗り出す事態となっています。そこで、トレーナーを育成するトレーニング指導者業界の団体のひとつ、JATIの事務局長 斉野恵康氏に業界団体から見た現状と今後の展望についてお話を伺いました。今回はその第2回。
第1回はこちら>>「JATI(日本トレーニング指導者協会)とは?」
―トレーナーの今後の展望についてはどうでしょうか?
健康増進や介護予防、生活の質の向上、スポーツの競技力向上やジュニアの運動能力開発などトレーナーがかかわる分野は年々幅広くなっています。また、こうした分野の研究も盛んになり、より効果的な手法もどんどん導入されてきていて、トレーナーにとっての未来は明るいと思います。
しかし近年、トレーニングアプリなどをはじめとしたAIの普及などもあり、AIでも対応できるレベルの指導しか出来ないトレーナーは生き残れなくなる可能性があります。様々な科学的知見を理解して実践し、目の前の顧客のための最適な指導を顧客目線で考えて結果を出していく、そのような高度な知識とスキル、ホスピタリティとビジネス感覚を兼ね備えた人材であれば、社会的地位や報酬も上がっていくと考えています。
ーその展望に向けてトレーナー業界としては何が必要でしょうか?
このような業界の未来を実現していくためには、1団体ではなく、業界が団結する必要があると考え、志を同じくする団体で運動指導者団体連絡協議会という業界団体を作りました。現在、公益社団法人日本フィットネス協会、NPO法人日本健康運動指導士会、NPO法人NSCAジャパン、そしてNPO法人日本トレーニング指導者協会(JATI)の4団体が加盟しています。
今後はエビデンスに基づいた教育をしていること、しっかりと継続教育をしているか等々の最低限必要な協議会加盟条件を明文化し、この方針に合致すれば、他の団体も加盟できるようにしたいと思っています。
また、JIS規格のように加盟団体の各資格のクオリティを第三者機関を通して担保するという取り組みも検討しています。また、いずれは総合的な指導の団体だけでなくワンアイテム、ワンエクササイズの指導資格についても運動指導者(トレーナー)に有益なプログラムの指導者団体については、業界団体としてご一緒いただくことも視野に入れています。
―運動指導者団体連絡協議会の設立から4年ということですが、ご苦労や今後については?
運動指導者団体連絡協議会を設立にあたっては難しい点もありました。もともとのスタートが全く違いますし、ある意味ライバルでもある団体同士が一つにまとまるには時間もかかりましたが、時間をかけてお互いを理解し、大きな理念を共有することで業界団体を設立することができました。
現在は年に数回、スポーツ省や厚生労働省にお伺いして活動の報告をしたり、協議会で定期的に会合を持ったり、行政からの業界調査の依頼に協力して対応したりしています。また、協議会の共同事業としてはスポルテックという展示会で昨年からセミナーを実施しています。
―運動指導者団体連絡協議会は今後どんな活動をされていくのですか?
昨今、ボディメイクブームなどもあり、急激にトレーナーが関与するマーケットに注目が集まるようになってきました。もちろん十分なスキルや知識、経験を兼ね備えた指導者もいる中で、まだまだ発展途上の無資格トレーナーや偏った知識やスキルのトレーナーが一定数いることも事実で、パーソナルトレーニング中の事故や指導された内容に疑問を持つ方等が増える傾向にあります。
資格を取るということは、最低限この分野で活動するための知識や技能はカバーできているということの保証ですが、より人々が安心してトレーナーの指導を受け、満足していただける状態にしていきたいと思っています。
現在、運動指導系の国家資格を作ったらどうかという議論もありますが、医師の世界で例えると、一言で医師といっても小児科から脳外科から消化器系からとにかくその領域が広いので、医師国家試験は相当な難関です。それと同様に運動指導者でも対象はジュニアもあれば高齢者もいる、怪我が完治していない方や既往症のある方、生活習慣病患者やがんサバイバーもいる、トップアスリートもいれば、趣味の市民ランナーもいるし、実に多様な対象や目的がある中で、国が責任をもってそれらを1つの資格で網羅させることは大変なモンスター資格をつくることになり、医療費の削減が課題となっている昨今、その取得の労力に見合った資格取得後の仕事や報酬を担保するのは困難だと思われます。
ですので、各専門性の特色のある民間団体がしっかりとした基準の下で協力し合い、信頼される業界団体を作って対応していくのが現実的だと考えています。
(※第3回「これからのトレーナーに求められること」へつづく)
プロフィール
斉野 恵康(さいの よしやす)
特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会事務局長。
早稲田大学ゴルフ部監督としても活動し、アスリートの指導を行う。
資格・経歴
1994年 早稲田大学第二文学部卒業
1997年 株式会社ベースボールマガジン社 広告局
2003年 株式会社BBMスポーツコミッション事業部長(出向)
2007年 NPO法人日本トレーニング指導者協会事務局長(兼務)
2008年 株式会社ジャパンスポーツコミッション 執行役員
2011年 現職